支援プロジェクト » 対談 田中 亜紀 氏 × 水越 美奈 氏

対談 田中 亜紀 氏 × 水越 美奈 氏
~アニマルシェルターとボランティアの未来~

多大な被害を受けた東日本大震災。ペットと共に生きていくことについてもさまざまな角度から、今まで以上に考えさせられるようになってきています。「被災地に学ぶシェルターメディスン」というテーマのもとに福島で開催されたセミナーの後、講師である田中亜紀氏、水越美奈氏に特別対談をしていただきました。 被災・保護動物、ボランティア、また飼い主の意識に関する在り方などについて、アメリカでの経験を豊富にお持ちの二人が語ってくださいました。

田中 亜紀(たなかあき)氏(シェルターメディスン・カリフォルニア大学デイビス校)

日本獣医生命科学大学卒業後、渡米。
University of California, Davis, Department of Environmental ToxicologyのMaster's course修了。その後、同大学でMaster of Preventive Veterinary Madicineをシェルターメディスンで修了。
同大学のシェルターメディスンプログラムで米国のアニマルシェルターでの感染症に関する研究に従事。 現在、同大学Department of EpidemiologyでPhD課程。
研究テーマは、日本の動物愛護センターにおける動物群動態と感染症の発生状況や疫学的分析。獣医師。

水越 美奈(みずこしみな)氏(行動学・日本獣医生命科学大学)

日本獣医生命科学大学獣医保健看護学科講師、同大学付属動物医療センター行動治療科担当日本獣医畜産大学獣医学科卒業。
大学卒業後、動物病院勤務(7年間)を経て米国へ。米国では大学と個人の行動治療クリニック、動物保護施設(San Francisco SPCA, Denver Dumb Friends League)で研修。帰国後、PETS行動コンサルテーションズ開業、国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所障害福祉研究部特別研究員を経て現職。獣医師、博士(獣医学)、(公社)日本動物病院福祉協会(JAHA)認定家庭犬インストラクター。

━━アニマルシェルターセミナーを始めた経緯をお聞かせください

田中亜紀
(以下田中)
公益社団法人日本動物福祉協会の山口千津子先生がご自分の活動の過程で、シェルターメディスン(以下S・M)(*注1)の重要性を考えていらして、アメリカでそれを勉強していた私に「日本でもセミナーを開催していきましょう」と、お声がかかりました。S・Mは感染症などに特化していますが、シェルターワークの中で動物のストレス軽減や譲渡においては行動学も非常に重要で、行動学が分野の水越美奈先生にもご協力していただいたという流れです。
水越美奈
(以下水越)
欧米では、譲渡システムやシェルターはすでにありますが、日本は2007年の動物愛護法の改正から、多くの自治体で譲渡を推進するようになってきました。私は約10年前に行動学を学ぶために渡米したのですが、その時シェルターでボランティア経験した中で、ボランティアの教育の重要性を感じていました。
私は行動学専門ですが、シェルターは感染症や特殊な状況があるので、S・M専門の先生と一緒にボランティア教育をしていけるのはうれしいと思いましたね。
田中
ボランティアセミナーもつけているのは、シェルターワークに地域のボランティアの方々は絶対必要なので、災害前からこれはやりたいと話していました。
シェルターで楽しく活動していただくには、問題が起こらないようにきちんとトレーニングしていくことが重要だと。
水越
そうですね。アメリカでのシェルターボランティアは、言い方は変ですが、気楽だし充実していました。向こうでは、動物介在療法((*注2)などでもボランティア教育がきちんとありますが、日本では以前はそれがほとんどなかったのです。渡米前に自分の犬を高齢者施設に連れて行くボランティアをしていますが、その時は楽しい一方でストレスが大きかったんですね。
アメリカでそれを感じなかったのは、ボランティア教育が充実していたからだと思います。自分の責任はどこまでか、そしてその範囲内であれば自由にできるし、これ以上は自分でやる必要もないということが明確だったことが、楽しくボランティアを続けられたというのがありますね。
日本でもさまざまなところでボランティア活動がされていると思います。皆さん動物が好きでやっていて心持ちは欧米と全く同じなんだけど、なかなか続かないというのは、結局そこの部分が大きいんじゃないかと。なにをやったらいいのか、自分の責任がどこまでか分からないのが、不安やストレスになったりするんだと感じますね。
やはり、ボランティアは楽しくやることが大切だと思います。
そのためには、ボランティアに対して、責任の所在など情報をきちんと与えることが大事だと思います。
なので、ボランティア教育の重要性についてシリーズ化でやりたいねということになりました。
田中
本来、ボランティア教育はシェルターでやらなければならないものだと私は思うんですよ。ただ、ボランティア教育やボランティアトレーニングの概念が日本では根づいていないので、私たち外部から、こういうものがあって、それをシェルターでしなければいけないんですよと情報提供の場としているつもりです。だから私自身がボランティアの皆さんをトレーニングしようとは思っていないんです。どの施設でも状況は違うので、1つのマニュアルを共通にして使いまわすようなことはできないんです。他力本願ではなく、センター自体がお金も時間もかけて努力してボランティアさんを育てなければいけないと思います。
水越
必要なものはその地域や規模によって違うし、かといって何もないところから作るのは大変なので、こういうセミナーを通じて、必要なものを取捨選択していただくのがよいかと。私たちはアメリカでの経験しか話せないけれど、いいなと思ったところは持ち帰ってやっていただければいいと思います。
ただ、私も田中先生も、ボランティア教育が必要だということを強く思っています。
田中
そうですね。そして、私は、ボランティアよりもまず、運営側の方々の教育が本当に大事だと思います。

*注1:感染症が多発する犬や猫の多頭飼育環境における『群管理』の獣医療

*注2:定められた基準を満たした飼い主と動物を、医療専門家のプログラムに介在させた治療法のひとつ。

<< 1 2 3 4 5 >>